ジョン「のちの”イエスタディ”につながるポールのビッグ・バラード」
The Beatles – “And I Love Her”
And I Love Her (Lennon/McCartney)
THE BEATLESの3枚目のアルバム “A HARD DAY’S NIGHT”の5曲目
サビの部分をジョンが手伝ったという話もありますが、実質ポールの曲で、ポールがリード・ボーカルを担当。
「のちの”イエスタディ”につながるポールのビッグ・バラード」とジョンは分析しています。
ポールらしいとも言える美しいアコースティック・ナンバーで、
多くのアーティストにカバーされている曲です。
中でも”エスター・フィリップス”のカバーがお気に入りだったとポールは発言しています。
歌詞の内容はひたすらラブソングですが、”I Love You”ではなく、”I Love Her”としてるところがポールらしいかなって思います。
この曲はなんと言っても、間奏での転調が大きなポイントになっています。
これを真似した作曲家は山ほどいるんじゃないでしょうか。
その転調とは、簡単に言うと”間奏に入る瞬間に半音上がる(転調する)” というものなのですが、
その半音上がる転調にも一工夫加えられてるのがさすがビートルズです。
間奏まで(転調前)のキーが E or C♯m (ミ ♯ファ ♯ソ ラ シ ♯ド ♯レ ミ)
間奏から(転調後)のキーが F or Dm (ファ ソ ラ ♭シ ド レ ミ ファ)
上記の通り半音転調をするのですが、まずは転調前の部分を細かく見て行きましょう。
(転調前)
キーはE or C♯m(ミ ♯ファ ♯ソ ラ シ ♯ド ♯レ ミ)
キーEのスリーコードは
(Ⅰ) E = ミ ♯ソ シ
(Ⅳ) A = ラ ♯ド ミ
(Ⅴ) B = シ ♯レ ♯ファ
他に出てくるコードは、Eの代理コードのC#mと、2度マイナーのF♯mと3度マイナーのG♯m
(Ⅵm) C♯m = ♯ド ミ ♯ソ
(Ⅱm) F♯m = ♯ファ ラ ♯ド
(Ⅲm) G♯m = ♯ソ シ ♯レ
(※ キーはC♯mという考え方もありますが、わかりやすくEから見た形で進めさせてもらいます。ちなみに私はC♯mの方が強いと感じています)
一つ一つのコード自体、キーがEの時に出てくる普通のコードですが、
その組み合わせかたが後の転調でおもしろい効果を出しています。
まず、曲は短いギターフレーズのイントロで始まりますが、その後にバンドで入ってくる最初のコードはF♯m (♯ファ ラ ♯ド)です。
いきなりⅡmからはじまるのです。
(イントロ) | F#m | F#m | E | E | Aメロは”I give her all my love〜”(0:09〜) | F#m | C#m | F#m | C#m | | F#m | C#m | A | B | E | E |
イントロも歌もF♯mから始まります。
そして| F#m | C#m |を繰り返して最後はEになります。
| F#m | C#m |をくり返すので、マイナー調の雰囲気が強くなりますね。
そしてサビ”A love like ours〜”(0:50〜) | C#m | B | C#m | G#m | | C#m | G#m | B | B |
サビでは一度もEは出て来ません。代理コードのC#mばかりです。
この感じがマイナー調の雰囲気をさらに強くします。
曲の構成そのものはこの形です。
ポイントは2度マイナーのF♯mから入ると言う事と、
Eよりも代理コードのC#mを多用してるということです。
そしてこれを繰り返して、問題の転調がやってきます。(01:28〜)
転調するのはAメロ後に間奏に入る瞬間です。
間奏の構成はAメロと同じコード展開なのですが、半音転調してるため、キーがEからFになっています。
転調前のAメロから転調後の間奏終わりまでのコード進行を書かしてもらいますと、
(Aメロ 転調前) | F#m | C#m | F#m | C#m | | F#m | C#m | A | B | E | E | (間奏 転調後) | Gm | Dm | Gm | Dm | | Gm | Dm | B♭ | C | F | F |
Gmから全てが半音上がっているのが分かってもらえますでしょうか?
キーEから、キーFに転調するのですが、その転調が行われる瞬間はEでもFでもなくて、Gmからなのです。
分かりやすくコードネームを書かずに、機能だけで見てみると、
| Ⅱm | Ⅵm | Ⅱm | Ⅵm | | Ⅱm | Ⅵm | Ⅳ | Ⅴ | Ⅰ | Ⅰ |
この機能性で、そのまま半音転調します。
普通の平凡な転調なら、転調前に少し転調を匂わせるコードを鳴らしておいて、
転調後のキーとなるコード、この場合ならFかDmから転調後の世界がはじまるのですが、
“And I Love Her“はいきなり2度マイナー(Gm)から転調します。
そして転調前のコードEから見たGmの音がなかなか強烈なのです。
E = “ミ ♯ソ シ” Gm = “ソ ♭シ レ”
Eのメジャーの3度の”♯ソ”と5度の”シ”の音がどちらもフラットしています。
Gm自体、マイナーコードなので暗い響きがしますが、
Eの音階の”♯ソ”と”シ”をフラットさせるので、さらに曲が深く暗くなります。
“And I Love Her“のこの転調には、何重にもマイナー要素が絡まってるのです。
さて、転調ばかり書かせてもらいましたが、
この曲の最後の最後のコードがおもしろいことをしています。
アウトロは、イントロと同じギターフレーズ(半音上がっていますが)を繰り返します。
ただ、コードが違う展開をしています。(02:10〜)
繰り返すギターフレーズは”ド ファ ミ レーーー” | Gm | Gm | F | F | | Gm | Gm | D |
Gm = “ソ ♭シ レ” F = “ファ ラ ド” Dm =”レ ファ ラ” D = “レ ♯ファ ラ”
まず、イントロのコード進行のまま転調したとしたら、
|Gm|Gm|Dm|Dm|となるのですが、
“Dm”ではなく”F”になっています。
代理コードの関係なのでどちらも問題ないのですが、
アウトロでは明るい方を使っています。
何重にもマイナー要素が絡まっていた曲のエンディングで明るい方のコードを使ったのです。
そしてさらにさらに、
曲の最後は、DmでもFでもなくDのメジャーで終わります。
単純にFの代理コードのDmを、明るい音のDメジャーにしただけの終わり方なのですが、
Fの明るさとは違う世界での明るさが出て来ます。
最後のコードだけ、DマイナーからDメジャーに転調してるとも言えます。
そうなんです。
何重にもマイナー要素が絡んでた曲のエンディングで、
今度はメジャー要素が複雑に絡んで転調メジャーコードで終わるのです。
“And I Love Her“は2:30という短い時間の中で、こんなに複雑なことをしてたのです。
ただ、こんな素晴らしいことをしてるにも関わらず、
その大事な大事な締めのアウトロの入りの部分で、
ポールがギターフレーズをハミングしようとしますが、
思いっきりハズしてます 笑 (02:10〜)
どうしてハズしたポール?!
どうして残したジョージ?!
まあその辺はご愛嬌かな。
では、かなり長くなりましたが、まとめさせてもらいます。
転調前のキーはE(ミ ♯ファ ♯ソ ラ シ ♯ド ♯レ ミ)ですが、
いきなり2度マイナーのF♯m(♯ファ ラ ♯ド)から入り、間奏に入るときいきなり転調します。
転調前の最後のコードはEメジャー(ミ ♯ソ シ)、転調の瞬間はGm(ソ ♭シ レ)。
しかもこのGmは転調後のキーF (ファ ソ ラ ♭シ ド レ ミ ファ)から見たら2度マイナー。
何重にもマイナー要素が絡んだ曲もエンディングを向かえるのですが、そのエンディングでイントロと同じフレーズを明るいコード進行で奏でます。
そして最後の最後、Fの代理コードDm(レ ファ ラ)をメジャーに変えたD(レ ♯ファ ラ)でさらなる明るい世界で終わるのですが、
その感動的なアウトロがはじまる瞬間にポールがハミングをハズしてて、すごくオチャだよねっ!
ていう曲なのです。
ちなみにこの曲の転調部分と同じような効果を短い時間で行ってるのが”If I Fell”の出だしの部分、
この曲のイントロ・アウトロの感じをさらに進化させたのが”I’ll Be Back“のイントロ〜Aメロだと思います。
どの曲が先に出来たのかは厳密には分からないのですが、曲を分解して考えるとそんな風に思います。
あくまで主観ですし、間違ってるかも知れませんが、
私の解釈を書かせていただきました。
長々とお付き合いありがとうございました。
ポールが気に入ってた”エスター・フィリップス”のカバー
Esther Phillips – And I Love Him
The Beatles – And I Love Her (Rare take – Electric version)
Paul McCartney – And I Love Her (Live)

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